人はなぜ、物語を必要としているのか

私は小さい頃、本が友達だった。

それはそれはひどい人見知りで、同じ年頃の同級生たちとどう関わったらいいのかわからず(子供らしくはしゃぐとか、思考が邪魔してそういうやり方がよくわからなかった)途方に暮れる毎日でした。

そんなとき、絵本や小説は、幼い私の手をひいて、
ここではない何処かに遊びに連れて行ってくれたのです。

家から徒歩5分の場所にある図書館には、幼稚園の時からずっと通っていて(実家に帰ると今でもよく行く)第二の家だと思っていました(今流に言うなら、サードプレイスかもしれない)。

そこには4人掛けのテーブルがあって、いつも読みずらそうな姿勢で虫眼鏡で本を読んでいるおじいさんや、カリカリと静かに受験勉強をしている大学生や、本を何冊も何冊も重ねてこれは1日図書館いいても読みきれないだろうというような数を積み重ね自分のパーソナルスペースを確保しているおじさんなど…。いつも見かけるメンツに心の中で挨拶しては、目についた本をジャンル問わずに読み漁っている、そんな変わった子供でした。

うまく人前で喋れなくても、スポーツが苦手で自転車に乗れないから近所の友達の遊びに入れなくても、本はいつでも私が好きな時にひらけば、「ようこそ」と出迎えてくれる唯一の友達でした。

「物語」の世界は、どんな人も平等に、その架空の世界に迎え入れてくれる器の広さがあると思うのです。余計なおしゃべりや質問をしてこない、おせっかいもしてこない、自分がそこに入りたい時だけ入ることができる…自分勝手でわがままな私を迎え入れてくれたのです。

他の人と、物語を必要としていた理由は私の場合、ちょっと違うかもしれない。

だけれども、そういう人もいたんだ、ということもある種の一つの物語の欠けらになるかもしれないと思って、書き残してみています。

【書き手】
Chiyo/月詠み調香師
https://ablxs-fragrance.com
https://www.instagram.com/ablxs_official/
1985年東京生まれ。フレグランス・化粧品に特化した美容ライター業、百貨店オーガニック化粧品ブランドのセールスマネジャーを経て調香師になるという、女性の美・悩みにまつわる様々な経験を持ち、クライアントに最適な製品を提案するカウンセリング力も強み。
2012年にブランド創業。2020年に(株)アブラクサス創立。香りの文化を広めるべく、一般の方へ向けた調香の基礎を学べるクラスも展開中。20歳のころより学びを深めてきた占星術・タロット研究の知識を取り入れ、今の心の状態に寄り添う香りやセッションを提供している。

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