自分の話をするのは少々気恥ずかしいですが、調香師Chiyoが活動を始めてから8年目、株式会社化をするにあたり新しいスタートを切る2020年、この節目に改めてなぜ私は香りをつくるのか、そしてなぜ月の香りをつくるに至ったのかお話してみたいと思います。
香りという“魔法”に魅了されたきっかけ
私が香りの世界に魅了されたのは、「制限のない自由な表現ができる世界」だからです。
そう、それは小説と同じで、何のタブーもない世界です。
初めて私がディープに香りの世界に触れたのは、ちょうど二十歳のとき。
当時美容の専門学校に通っていた私は縁あって、とある美容ライターさんのアシスタントとしてインターンシップをさせていただいていました。
その方は、化粧品の中でも特に香水に特化したライター・編集者をされており、あるとき香水関連のムック本に携わらせていただく機会があったのです。
そのとき初めて、数十、数百の香水に一気に囲まれ、その世界観に圧倒されることとなります。
それぞれの匂いを試していく中で、見た目は同じような「水」なのに、その中にはブランドのフィロソフィー(哲学)やこだわりがびっくりするほど濃縮されていることを知りました。香水は「物語という魔法の濃縮液」なんだ…香水に閉じ込められているのは、作者のロマンやストーリーなのだと、この時初めて気づいたのです。
例えば、ジバンシイの『ランテルディ』は元々オードリーヘップバーンのためだけに作られた香りで「私以外使っちゃダメよ!」という意味で「禁止」というタイトルが付けられています。ダメ!といわれると人間は逆に興味を持ってしまうものですよね。この香りを初めてプッシュしたときの、得も言われぬドキドキ感・緊張感は今でも忘れられません。
また、イヴ・サンローランの『オピウム』は「阿片」という意味。実際の阿片に手を出すことはもちろんできませんが、陰鬱とした阿片窟で阿片を吸ったかのような恍惚感を得られる香りとはどんなものなのだろう…と想像を掻き立てる。これこそ香水の魅力(魔力?)だと、実感したものです。
こんな風に、人を魅了するストーリーと魅力を持った香水。いつか、自分でも作ってみたい…そう心のどこかで感じたのは、このときでした。
その後就職した化粧品会社で働き日々に忙殺されていた私は、ふとこのときの記憶を思い出しました。私にはやり残していることがある…そう、それは香りをつくるということだと。
なぜ今、「月」の香りなのか?
それから10数年が経ち、今年2020年に正式にフレグランスカンパニーを立ち上げることとなったのですが、さて、最初にローンチする香りのテーマは何にしようか?そのとき私が想い出したのが「月」というキーワードでした。
毎夜見上げると形を変える月は、まるで私たちの揺れ動く心模様を映し出すようです。
人間たちが生み出したテクノロジーやAIによって便利になりつつも、逆に様々なことをスピーディにこなさなくてはならないような、何かに急かされ見張られているような気がする現代。日々の忙しさに呼吸を忘れそうになりながら帰路につく夜にふと空を見上げると、毎晩そこに輝くのが「月」でした。
白銀の矢のように繊細な三日月、煌々と輝くパワフルな満月、雲が掛かって見えなくても今日もきっとその闇の向こうに存在してくれている…いつも月が私を見守っていてくれる…そう感じられることで、なんだか明日も頑張ろう!会社員時代の私はよくそう思っていたものです。
よく小節やドラマでも、月は登場しますね。
登場人物に何かを語らせなくても、月相(月の形)が変わっていくことで物語の中で数日経ったことを暗示したり、闇夜に満月をアップで映し出すだけでも、この夜に何か事件が起きたに違いない!などと思わせるような、神秘的なストーリー性があります。
そう、月は無言で何かを感じさせる「無意識」や「心の内側」を映し出すものなのです。
占星術でもそのように読み解いていく月ですが、きっと小難しいことを知らなくても、誰もがその捉えどころのない魅力を感じている存在なのだと思います。
そんな多くの人の心を捉えて離さない月の魅力を、香りに閉じ込めてみたい!そう思ったのが、今回の『MOON EAU COLLECTION』を作ろうと考えた、大きなきっかけの一つです。
占星術の話に移行していきますが、月は太陽と対にして語られることの多い存在です。
太陽は昼、月は夜みることのできる惑星ですが、まさに占星術でも太陽は「意識的に使うもの」、月は「無意識が欲するもの」と、昼の意識・夜の意識として読み解くことが可能です。
どちらも非常に大切で、特に太陽は仕事や自分の使命を果たすため、どんどんと使いこなしていきたい星です。しかし、その目的のためだけに頑張っていると、ふとした時に自分の内側が悲鳴をあげることがあるのです。
自分の太陽を使い能力を磨き、仕事で活躍し、他者のために尽くすことで才能が発揮されていきます。それはある意味外面的な自分です。あるときには、いつもより背伸びして頑張ることもあるし、それで自分が実際にできることも増えます。
でも100%毎日それだけで生きていると、ふとした瞬間に緊張の糸が「プチン」と切れてしまうこともあり得るのです。
そんな時に大切にしたいのが「月」という存在です。
ご存知の通り、月は毎夜姿を変えていきます。「いつも安定した完璧な自分でいなきゃ」という強迫観念から解き放ってくれるのが、月という存在そのものかもしれません。揺れ動いても、変化しても構わないのです。
輝いている時も、そうでない時も、どちらも愛すべき自分です。どんな状況のあなたでも愛していいのですよ、愛される価値があるのですよ、そんなメッセージを込めて、この4種の香りは生まれました。
それぞれの月のオーラを纏うかのように、香りのヴェールを纏って日々を心地よく生きるきっかけになれたら嬉しく思います。
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