魅惑的な「迷宮」の香り

Podcast(WEBラジオ)の聴き方がわからないです、とよくお問合せをいただくので、

番組でお話してさせていただいた内容を文章に書き起こしました。

ぜひ、ラジオ本編とあわせてお楽しみください♪

【Podcastの聴き方はコチラから】https://ablxs-fragrance.com/?page_id=262

 

こんにちは、調香師/ブランディング・ディレクターの千代です。

 

ナビゲーターの藤谷です。

 

今回は、前回のイタリアの教会の修道院で育てられた植物の話から繋がる、

とあるアルゼンチンのフレグランスについてのお話をしていきたいと思います。

 

はい、本日もよろしくお願いします!

 

前回は、キリスト教の教会では病気の治療法の研究も行われ、

修道院の庭では薬の原料となる植物が育てられていた

というお話がでてきましたね。

 

そう、その話とも繋がるのですが、現在は観光名所でもある

イタリアの水の都・ヴェネツィアが貿易で世界の中心だった頃、

商人たちによって集められた世界中の薬草が密かに育てられていた

SAN GIORGIO MAGGIORE(サン ジョルジオ マッジョーレ)教会という場所がありました。

その教会には、現在南米・アルゼンチンの作家ボルヘスの名を冠した庭があるそうです。

 

異国の地の作家の名前がついた庭があるとは、興味深いですね。

ボルヘスは様々な国を旅していたそうですが、そんな旅の中で縁のあったイタリアで誕生した「LABERINTO(ラベリント/迷宮)」という短編があるそうですね。

 

はい、本当に短い文章そのものが迷宮のような、印象的なお話です。

そして実はその短編ラベリントの名前を冠したフレグランスが、

アルゼンチンのフレグランスブランド・フエギア1833から発売されています。

 

へ〜!それはまた気になりますね。

迷宮というタイトルも気になりますが、まずボルヘスがどんな作家なのか教えてください!

ホルヘ・ルイス・ボルヘスはアルゼンチン・ブエノスアイレス出身の詩人、作家です。

夢や迷宮、無限と循環、架空の書物や作家などをモチーフとする幻想的な短編作品により知られています。

宇宙と存在の永遠の在りようを探る、形而上学的な作風が特徴で、

彼の評価は1960年代の世界的なラテンアメリカ文学ブームによって確立され、

その作品は20世紀後半のポストモダン文学に大きな影響を与えた人です。

 

かなり変わったテーマの作品が多いんですね。

無限のループ・円環や、鏡、迷宮などというモチーフがよくみられて、

作品の中では人智を超越した不思議な出来事が起きているそうですね。

 

自分の知覚したこと、経験したことすべてを完全に記憶して忘れることができなくて苦悩している男を巡る物語や、

「他者」という物語では60歳のボルヘスが10代の自分自身と邂逅するという衝撃的なシーンもあって、

それが有り得ないとわかっていても、いやにリアリティがあって不思議な感覚を与えてくれるんですよね。

 

なるほど、その不思議な感覚が幻想文学と呼ばれる所以なんでしょうね。

さて、そんなボルヘスの描いた「迷宮」、

香りではどのように描かれているんでしょう?

宇宙そして人間の中にあるカオスを幾つもの次元で表現した、

香りのラビリンス「迷宮」。

 

はじめは青い、あまり嗅いだことのないミステリアスな雰囲気に包まれます。

そして時間が経つと、どんどん濃さを増しサンダルウッド

パタゴニアン バルサムという樹脂の香りが顔を出してきます。

 

さぞかし深みのある香りなんでしょうね!

 

はい、時間が経つほど濃く、濃厚になっていくかんじ

虜になって抜け出せなくなりそうなかんじは、まさに一本道であり、

道の選択肢はない迷宮そのもの、といった空気が味わえますね。

 

ちなみに、ちょっとマニアックな話ですが、迷宮と迷路って言葉は似ていますが、

実は大きな違いがあって、迷宮って定義があるそうですね。

【迷宮】

はい、例えば、

  • 通路は交差しない。
  • 通路は振り子状に方向転換をする。
  • 迷宮内には余さず通路が通され、迷宮を抜けようとすれば、その内部空間をすべて通ることになる。

などという定義があります。

 

本来の迷宮の構造は秩序だったものなんですね。

逆に今教えていただいた特徴を否定すれば、迷路ができあがるってことですね。

【迷路】

行ったりきたりとか、通らない道っていうのは実は迷宮にはないんですね。

 

そう、似て非なるものなんですね。

ちなみにキリスト教のゴシック建築の教会、たとえばフランスのノートルダム大聖堂などの床が迷宮の模様になっているものもあるそうです。

お〜、またこれもキリスト教とも縁の深いモチーフのひとつなんだな、

と気づかされますね。

 

ちなみにこのフエギアというブランド、

他にもボルヘスから影響を受けた香りがあるとか?

 

はい、実はLITERATURA COLLECTION(リテラチュラ コレクション)という名前で

南米文学を象徴するボルヘスの作品からインスパイアされたシリーズがあります。

(※ LITERATURA=文学の意)

今日はせっかくなので、冬にピッタリな香りを

そのコレクションの中からご紹介していきますね。

ひとつめはLa Joven Noche(ラ ホーベン ノーチェ)。

ボルヘスの詩「La Joven Noche/若き夜」に影響を受けた、

幻想の夜を称えた香りです。
夜闇が創る影の中、庭で起きる救済の儀式。

浄化されて迎える朝をイメージした香りとか。

 

とても静かで、人の肌のにおいと錯覚してしまうような、

羽毛のように非常にやさしい香りです。
ボルヘスの想像した神聖な夜を、3つの「想像の白檀」で表現した

っていうのも面白いですよね。

 

はい、Mysore(マイソール),Nueva Celedonia(ヌエヴァ セレドニア),Spicatum (スピカタム)という3種のサンダルウッドを使っているそうですが、

白檀の香りのグラデーションだけあって、最初はやわらかいのに、

時間が経つほどに複雑なヴェールのように濃厚に香りたってきます。

 

公式の紹介文にも、

『白檀・白檀・白檀、産地の異なる白檀で構成された、最も白檀な香り』

と書いてあります。

 

樹木の香りで、瞑想のような静かな気持ちになりたい方にこちらはおすすめですね。

次にご紹介してくださるのは、

「Biblioteca de Babel (ビブリオテッカ バベル)/バベルの図書館」という香りです。

こちらはフエギアの調香師ジュリアン・べデルが初めて発表した作品だそうですね。

 

初めての作品…きっと作者にとっても思い入れの深い香りですよね。

 

古い図書館の革張りの椅子を擦ったときに感じる香りをイメージしたとか。

これもなかなかマニアックなテーマですね笑

 

ボルヘスはもともと図書館司書をしていたこともあり、「図書館」というモチーフが作品の中にも度々登場しています。

また、作家でありながら自らのことを「快楽的な読者」とも呼び、書くこと、読むこと、ともによろこびを見出していた人でもあります。

 

この香りは、ヒノキの書棚や漆黒のインクを思わせるスモーキーで、これまた静かな香りですね。そして奥にほんの少しだけ潜む、シナモンの甘さがクセになるんですよね。

 

とてもユニークでかっこいい香りですよね。

個人的には人がつける、というのも良いですが、

空間からこの香りが漂ってきたら、

ずっとそこから離れたくなくなるような気がします。(笑)

 

うん、いい意味で惹きつけられるような香りですよね。

静かにひとり読書を楽しみたいときに、

空気をガラっと変えるために纏ってみる、というのも良いかもしれませんね。

 

では最後にこの「バベルの図書館」の物語の中での、図書館の描写をご紹介します。

ぜひ、バベルの図書館の中に入ったような気持ちであなたも聞いてみてください。

 

 

主人公が「宇宙」と呼ぶ、巨大なバベルの図書館は、

中央に大きな換気孔をもつ六角形の閲覧室の積み重ねで成っている。

閲覧室は上下に際限なく同じ部屋が続いており、閲覧室の構成は全て同じなのだ。

 

閲覧室の壁のうち、4つの壁には5段の本棚がそれぞれに設置されており、

各段に32冊ずつ本が収納されている。

残りの壁はホールに通じており、

そのホールを抜けると別の閲覧室の回廊に続いている。

ホールには左右に扉があり、それぞれ立ったまま眠る寝室とトイレになっている。

 

また螺旋階段が設置されており、それを使って上下の閲覧室に行くことができる。

明かりはランプという名の果実がもたらしている。

 

司書たちはそこに住み、そこで生涯を終える。

その死体は換気孔に投げ捨てられるそうだ。

 

すごい世界観ですよね。

 

これ思わず最後え〜?!って叫びたくなるような、衝撃的な司書の結末でしたね!

読んでいて、まるで図書館という一生出られない迷宮に彷徨い込んでしまったような気分になりました。

 

ぜひ興味のある方は、この物語をじっくりと読みながら

フレグランスと一緒に味わってみてください。

 

物語の中に入りこむように、あなたもさまざまな香りを通して

新たな物語の魅力を感じてみてくださいね。

 

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