シベットって?「事故物件のにおい」のキーノート

いよいよ内見スタートとなった事故物件住みます芸人・松原タニシさん監修『事故物件不動産』の中のの”喫臭所(きつしゅうじょ)”でお試しいただける、調香師Chiyoが調香させていただいた「事故物件のにおい」。

聞いただけで、どんなにおいだよ?とお思いになるでしょうが、

これ、ただの嫌なにおい…ではないんです。

実は歴史的に高級香水にも用いられてきた、ある香料がキーとなっています。

今回はこのにおいの鍵となっている香料について、調香師目線で解説をしてみたいと思います。

目次

「シベット」とは?

今回の「事故物件のにおい」の鍵となる香料とは、シベット(Civet/霊猫香(れいびょうこう)と呼ばれる、もともとは香水に官能性や温もり、そして野生的な色気を与える動物性香料です。(今回使用しているものは動物保護の観点から、このシベットを合成で再現した合成香料です)

ムスク、アンバーグリス、カストリウムと並ぶ、伝統的なアニマリック香料のひとつ。

調香の世界では、非常に個性的で、少量でも香りの印象を大きく変える素材として知られています。

シベットは何から採れる香料?

シベットは、主にアフリカジャコウネコ(アフリカシベット)の会陰部付近にある分泌腺から採取される香料です。

顔はアライグマに少し似ていますが、体にはヒョウのような斑点模様があり、背中にはたてがみのような毛が生えています。

 

天然のシベット香料は、黄褐色から褐色のペースト状の分泌物で、非常に強烈な匂いを放ちます。

本当に、原液が手についたらとんでもなくクサイです…。危険です。私も会場で香料に触っていたところ、スタッフの皆様に「うわぁ、近寄らないで…」という顔をされました。

シベットとはどんな香り?

シベットの最大の特徴は、濃度によって香りの印象が劇的に変わることです。

原液に近い状態

  • 強烈な獣臭(けものしゅう)
  • 糞便を思わせるにおい
  • 動物の体臭や皮脂のようなにおい
  • 刺激的で、野性的な香り

決して一般的な「いい香り」ではありません。

ところが!極めて薄く希釈すると…驚くほど魅惑的な香りに変化するのです。

希釈した状態

  • 温かい肌を思わせるムスキーな香り
  • ほのかな蜂蜜のような甘さ
  • パウダリーな柔らかさ
  • 官能的で親密な体温を感じさせる香り
  • 花の香りを豊かにする、深みのある余韻

つまり、シベットは単にいい匂いを加えるのではなく、「人肌の温もり」や「本能的な色気」を感じさせる香料なのです。

シベットを使用した有名な香水

シベットは、伝統的なフランス香水の歴史において重要な存在でした。

代表的なのは、

  • ゲラン「ジッキー」(1889年)
  • シャネル「N°5」(1921年)
  • ゲラン「シャリマー」(1925年)
  • コティ「シプレ」(1917年)

これらの歴史的な処方には天然シベットが使用されていました。

(ただし、現在販売されている製品は処方が変更されている場合があり、天然シベットが使われているとは限りません。)

 

会場で今回のにおいを試していただいた方は、かなりビックリされるかと思います。

あのとんでもないにおいが、あのマリリンモンローが寝るときに纏っていたといわれる伝説の香水、CHANEL「N°5」にも入っていたなんて……?!


醜さと美しさは紙一重

シベットのおもしろさは、こんなにも不快に感じられる臭気が、ほんの微量になることで魅惑的な香りへと変わるところにあります。

 

香水における「魅力」とは、必ずしも”良いにおいだけで構成される”わけではないのです。

ときには少し不穏で、野性的で、決して清潔とはいえない香りが加わることで、記憶にこびりつくような忘れられない魅力が生まれます。

 

今回このシベットという香料と真剣に向き合ったことで、私が改めて気づいたこと。

本能に突き刺さる香りの魅力とは「完璧な美しさ」ではなく「抗いがたい何か」を与えることなのだと。

 

今回展示されている香りも、不快だけれど何度も嗅いでしまった…という方がきっといらしゃるのではないでしょうか?

それは、まさに人間や動物の発する「生きものとして証」が発するシベットのクセになる魅力のせいかもしれません。

「霊」猫香と呼ぶのはなぜ?

また、私が気になったのはシベットは日本語では「霊猫香」(れいびょうこう)と書き、

「霊」という漢字が使われているということ。

霊!まさに今回の企画にぴったりではないですか!

 

中国・明代の薬物学者、李時珍が編纂した『本草綱目』には、「霊猫」という動物について、次のような記述があります。

自為牝牡,又有香氣,可謂靈而神矣。

現代語に意訳すると、

「自ら雌雄を兼ね備え、さらに芳しい香りまで持つ。まさに霊妙で神秘的な存在といえよう」

という意味。

なんと当時、この動物は雌雄両方の性質を備えていると考えられていたようです。もちろん、実際に雌雄同体というわけではありません。

しかし、昔の人々にとっては、その不思議な身体的特徴と、特別な香りを生み出す能力が、神秘的な存在として映ったのでしょう。

魔女的な視点から見るシベット

私が特に興味深いと感じたのは、古代の人々がこの動物を、単に香りの採れる生き物ではなく、常識を超えた性質を持つ存在として捉えていたことです。

そしてシベットは、濃厚な獣臭が極めて薄い濃度では官能的な香りに変化するという、まるで錬金術のような性質を持っているということ。

 

様々な香料を試していた中で、今回の事故物件のにおいの主役に「これだ!…」と行き着いたのが、奇しくも「霊」猫香だったというのが、なかなかホラーづいているなと鳥肌が立った次第です。

 

まだ会場に行っていない方は…

ぜひこの「とんでもないにおい」お嗅ぎ逃しなく…!!

松原タニシ監修『事故物件不動産』

主催・企画:株式会社CS日本

会期:11月3日(火・祝)~12月5日(土)

料金:平日2,200円/休日2,500円

会場:東京ソラマチ5F スペース634

🎫チケット販売中

jikobukken-fudosan.com

※当日券もございます

※本展示に登場する物件・人物・出来事は、すべてフィクションです。

 

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